暑い季節になると飲みたくなる、冷たいコーヒー。その代表的なつくり方のひとつが、水出しコーヒーです。
熱い湯を使わず、常温や冷蔵庫の温度の水に粉をひたし、何時間もかけてじっくり成分を引き出します。手間はほとんどかからないのに、ホットとはひと味違う、まろやかな一杯になります。今回は、水出しコーヒーのしくみと淹れ方を見ていきます。
湯の代わりに「時間」を使う
ホットのコーヒーは、90℃前後の湯で数分のうちに成分を引き出します。温度が高いほど、成分は水に溶け出しやすくなるからです。
水出しでは、その温度の力を使えません。そのかわりに時間をかけます。一般的には8〜24時間ほどひたすことが多いとされ、研究でも冷蔵庫の温度ではさらに長い時間が使われています。
ただし、長ければ長いほどよいわけではありません。室温(21〜25℃)で水出しを行い、時間ごとの変化を調べた研究では、カフェインやクロロゲン酸の濃度は最初の3時間ほどで大きく上がり、6〜7時間ほどでほぼ頭打ちになったと報告されています。この研究では、挽き目の違いはそれらの濃度に大きな差を生みませんでした。
なぜ、やわらかい味になるのか
水出しコーヒーは「苦味が少なく、まろやか」といわれます。研究でも、この印象を裏づける結果が出ています。
- 苦味と酸っぱさ:同じ濃さにそろえて冷やした状態で飲み比べた官能評価では、水出しはホットで淹れたものより苦味・酸っぱさが弱く、花のような香りが強いと評価されました
- 酸の量:別の研究では、pHはホットと水出しでほとんど変わらない一方、滴定酸度(含まれる酸の量の目安)はホットのほうが高いという結果でした
つまり「水出しは酸性度が低い」というよりは、「熱い湯ほど多くの成分を引き出さないため、苦味や酸を感じにくい」と考えるのがよさそうです。言いかえれば、浅煎りの豆が持つ明るい酸味も、水出しではおだやかになりやすいということでもあります。
カフェインは少ない?
「水出しはカフェインが少ない」と思われることもありますが、そうとは限りません。前述の研究では、粉と水の比率をそろえて比べたところ、粗挽きの豆では水出しのほうがホットよりカフェイン濃度が高く、1Lあたりおよそ1,230mgと970mgという結果でした。時間をかけるぶん、カフェインもしっかり溶け出しているのです。
水出しは粉の量を多めにして濃く淹れることも多いため、飲む量には気をつけたいところです。濃いめに淹れた場合は、水や氷、牛乳で好みの濃さに割って楽しめます。
家での淹れ方
容器と粉と水があれば始められます。
- 粉と水の比率を決める。濃いめに淹れて後から薄める方法もあれば、そのまま飲める濃さで淹れる方法もあります。研究では粉1に対して水10という濃いめの比率が使われていました
- 挽き目は粗めに。ろ過がしやすく、細かい粉が残りにくくなります
- 粉全体が水になじむように、最初に軽くかき混ぜる
- 冷蔵庫に入れ、半日〜一晩ほど置く
- ペーパーなどでこして、粉を取り除く
お茶パックのような袋に粉を入れて水にひたす方法なら、こす手間も省けます。できあがったら清潔な容器に移し、冷蔵庫で保存して早めに飲みきりましょう。
急がずに待つことで、熱では出せないやさしさが生まれる。
豆の選び方
水出しは、豆の個性の「出方」も変わります。苦味が出にくいぶん、深煎りでもすっきりと飲みやすく、浅煎りでは酸味がやわらぎ、甘さや香りが前に出てきます。
研究では、水出しに使う豆の焙煎度によって、引き出されるクロロゲン酸やカフェインの量も変わることが示されています。好みの豆でまず一度淹れてみて、濃さや時間を少しずつ調整してみてください。
同じ豆をホットと水出しで飲み比べてみるのもおすすめです。温度と時間が変わるだけで、ひとつの豆がこれほど違う表情を見せることに、きっと驚くはずです。
夜に仕込んで、朝には一杯。水出しコーヒーは、時間がつくってくれるいちばん手軽なごちそうかもしれません。