やわらかく、甘く、バランスのよい味わい。メキシコのコーヒーは、そんなおだやかなイメージで語られることが多いかもしれません。

World Coffee Researchによると、メキシコは世界でも上位10か国に入るコーヒー輸出国で、生産はチアパス、ベラクルス、プエブラ、オアハカの各州に集中しています。今回は、メキシコのコーヒーの歴史と産地、そして生産を支える小さな農家について紹介します。


18世紀に始まったコーヒーづくり

コーヒーがメキシコに伝わったのは1700年代のこと。スペイン人の入植者がキューバやドミニカ共和国から木を持ち込み、メキシコ湾に面したベラクルスに植えたのが始まりと考えられています。

初期の農園は、ドイツやイタリアから移り住んだ人々が経営するものが多く、やがてベラクルスからオアハカ、チアパスへと広がっていきました。1870年代には輸出が本格化し、1900年代初めには小規模な農家も輸出向けのコーヒーをつくるようになったといわれます。


小さな農家が支える国

メキシコのコーヒーの大きな特徴は、小規模な農家の存在感です。輸入商社の資料によると、コーヒー生産者の70%は10ヘクタール未満の小農家とされます。

その背景として、次のような歴史が挙げられています。

メキシコのコーヒー農家の多くは先住民の人々だとされ、1990年代以降、協同組合を通じて認証付きのコーヒーを販売し、市場への道を切り開いてきました。


有機栽培とフェアトレード

メキシコは、有機コーヒーやフェアトレード認証のコーヒーの大きな輸出国として知られています。ある調査では、2012年にメキシコのコーヒー生産のおよそ17%が有機認証を受けていたと推計されています。もともと農薬や化学肥料を買う余裕の少なかった小農家にとって、有機栽培は取り組みやすい付加価値の道でもあったといわれます。

小さな畑と、それをつなぐ協同組合。メキシコのコーヒーは、人と人とのつながりからできています。

産地ごとの個性

コーヒーレビュー誌は、メキシコのコーヒーの伝統的な味わいを「やわらかく、甘く、バランスがよく、軽めから中程度のボディ」と表現しています。香りや風味には、ローストしたナッツ、チョコレートやココア、黒糖、ときにユリのような花の香りが挙げられます。

よく見られる品種には、ティピカ、ブルボン、カトゥーラ、カトゥアイ、カティモールのほか、マルセリェサやオロ・アステカといった病気に強い品種があります。収穫はおよそ11月から3月です。


さび病のあとで

2012〜13年ごろから広がったさび病は、メキシコでも、とくに有機栽培の農家にとって対処の難しい病気だったといわれます。

2015年以降、国の植え替えの取り組みによって、さび病に強く品質のよい品種の苗5億5,000万本が植えられ、15万ヘクタールが再生されたとされます。品質の面では、2012年にカップ・オブ・エクセレンスが開かれ、ベラクルス州コアテペックの農園のロットが90.03点で1位に選ばれています。

課題はほかにもあります。都市やアメリカへの人口の移動が長く続き、農村への投資が不足してきました。収穫期の働き手の多くはグアテマラなど近隣の国から季節ごとにやってくる人々ですが、その人手も足りない状態が続いているといいます。2025年の調査では、生産の盛りの樹齢(3〜15年)にあるコーヒーの木は全体の68%にとどまるとされています。

おだやかな一杯の向こうには、南部の山あいで畑を守り続ける、たくさんの小さな農家がいます。メキシコのコーヒーを飲むときは、そんな人たちのことを少しだけ思い浮かべてみてください。