同じ豆、同じ器具で淹れているのに、日によって味が違う。酸っぱくて物足りない日もあれば、苦くて舌に渋みが残る日もある。そんな経験はないでしょうか。
その理由を考えるときに役立つのが、過抽出と未抽出という考え方です。今回は、コーヒーの成分が粉からどれだけ溶け出したのかという視点から、味のぶれの正体を見ていきます。
豆の中で、溶けるのは一部だけ
焙煎したコーヒー豆のうち、抽出のあいだに湯に溶け出す成分は、およそ4分の1から3分の1ほどだといわれます。残りは、ふつうの抽出では溶けない繊維の部分です。
粉のうち、実際にカップに移った成分の割合を抽出収率といいます。一方、できあがったコーヒーの中に成分がどれだけ溶けているかを示すのが濃度(TDS)です。似ているようで、このふたつは別のものです。
- 抽出収率:粉から「どれだけ引き出したか」
- 濃度(TDS):カップの中で「どれだけ濃いか」
目安は「18〜22%」
コーヒーの抽出の目安として長く使われてきたのが、「コーヒー・ブリューイング・コントロール・チャート」です。1950年代のロックハートの研究にさかのぼるこのチャートでは、次の範囲が理想とされています。
- 抽出収率:18〜22%
- 濃度:1.15〜1.35%
たとえば、1リットルの湯に対して粉55gで淹れたコーヒーの濃度が1.50%だった場合、チャートで読みとれる抽出収率は約23.5%。理想の範囲を超えた「濃くて苦い」領域に入ってしまいます。
この中心の範囲は、スペシャルティコーヒー協会(SCA)の「ゴールデンカップ」基準としても知られています。チャートでは、抽出収率が低すぎる領域は「未発達(アンダーデベロップド)」、高すぎる領域は「苦い(ビター)」と表されています。
未抽出:引き出しきれていない
未抽出は、粉からおいしさを引き出しきれていない状態です。コーヒーの成分には溶け出しやすいものと溶けにくいものがあり、抽出が早く終わりすぎると、先に出てくる成分ばかりがカップに入ります。
全日本コーヒー協会は、抽出時間が短いとコーヒーは「酸っぱくて薄く」なると説明しています。カリフォルニア大学デービス校の研究でも、抽出収率が低い方向ほど、酸味や柑橘、ベリーのような風味が強く感じられる傾向が示されました。
過抽出:引き出しすぎている
過抽出は、その反対に、成分を引き出しすぎた状態です。時間をかけすぎたり、粉が細かすぎたりすると、あとからゆっくり溶け出す成分まで多くカップに入ってきます。
全日本コーヒー協会は、抽出時間が長いと「苦くてエグく」なるとしています。先の研究でも、抽出収率が高い方向では、苦味や灰のような風味、焙煎の香ばしさが強まる傾向がみられました。また、微粉が多いと過剰に抽出されやすいことも指摘されています。
酸っぱいのは「足りない」、苦いのは「出しすぎ」のサインかもしれない。味は、抽出の具合を教えてくれる。
「苦い」は濃さのせいかもしれない
ただし、味のすべてを抽出収率だけで説明できるわけではありません。先のデービス校の研究では、苦味や渋みは、抽出収率よりも濃度(TDS)によって大きく変わることがわかりました。つまり、苦いと感じたときは、引き出しすぎではなく、単に「濃すぎる」だけということもあるのです。
同じ研究では、87℃、90℃、93℃と湯の温度を変えても、濃度と抽出収率をそろえれば味の違いはほとんど感じられなかったと報告されています。温度は、抽出の進み方に影響する条件のひとつとして考えるとよさそうです。
味から原因を探る
コントロール・チャートの解説でも、抽出収率を下げたいときは抽出時間を短くするか、挽き目を粗くするとされています。変える条件はひとつずつ。味のサインを手がかりに、少しずつ自分の「ちょうどいい」を探してみてください。