フラスコの下でアルコールランプの炎がゆれ、湯がこぽこぽと上のガラスへ昇っていく。しばらくして火を離すと、今度は琥珀色のコーヒーがすうっと下へ降りてくる。

サイフォンは、見ているだけでも楽しい抽出器具です。けれども、その動きには理にかなったしくみがあります。今回は、サイフォンのしくみと歴史、淹れるときのポイントを紹介します。


サイフォンのしくみ

サイフォンは、上下ふたつのガラスの容器と、そのあいだのフィルターでできています。

  1. 湯が昇る:下の容器(フラスコ)の水を温めると、中の空気や水蒸気がふくらみ、その圧力で湯が管を通って上の容器(ロート)へ押し上げられます
  2. 粉と湯が触れ合う:上の容器に入れた粉と湯が混ざり、浸した状態で成分が溶け出します
  3. コーヒーが降りる:火から外すと下の容器が冷え、中の圧力が下がります。その力で、上のコーヒーがフィルターを通って下へ引き戻されます

粉を湯に浸して抽出する点ではフレンチプレスに近く、フィルターでこす点ではハンドドリップに近い。サイフォンはその両方の性質をあわせ持った器具だといえます。ハリオは、ハンドドリップよりもしっかりとしたボディがあり、粉っぽさのない一杯になると紹介しています。


ヨーロッパで生まれた器具

減圧を利用してコーヒーを淹れる器具は、1830年代のヨーロッパで生まれました。最初期の設計は、ドイツ・ベルリンのレフ(Loeff)によるものとされます。

ヨーロッパで生まれたサイフォンは、こうしてアメリカで広く使われるようになりました。日本がサイフォンと出会ったのは、ちょうどアメリカのコーヒー文化を取り入れていった時期のことだったと、ハリオは紹介しています。ガラスの器具は、耐熱ガラスを得意とする日本のメーカーにとって、自分たちの技術を生かせる製品でもありました。


日本で育ったサイフォン

サイフォンは、日本でも独自の発展をとげました。1921年に理化学用のガラス器具の製造から始まったハリオは、戦後まもない1946年、当時アメリカで人気だった10杯用の減圧式器具「コーリー」を手本に、すべてガラス製の試作品をつくったといいます。そして1948年に初めての家庭用品として、業務用の「コーヒーサイフォン50-10」を発売しています。直火で使うタイプで、ガラスのフィルターが使われていました。

1957年には、同社初のアルコールランプ式のサイフォン「S7型」が登場し、フィルターには布が採用されました。このときのキャッチコピーは「一日の生活は、朝のコーヒーで始める」。布のフィルターを使う点では、ネルドリップとも通じるところがあります。

サイフォンは、カウンター越しに抽出を見せる器具として、日本の喫茶店でも親しまれてきました。2003年には日本で「ジャパン・サイフォニスト・チャンピオンシップ」が始まり、2009年には世界大会へと広がっています。

湯の動きを目で追いながら淹れる、透明な時間。

淹れるときのポイント

サイフォンでは、粉の量や挽き目、湯と粉が触れ合う時間を、淹れる人が自分で決められます。そのぶん、次のような点を意識すると味が安定します。

条件をひとつずつ変えながら飲み比べると、それぞれが味にどう影響するかが見えてきます。好みの一杯を探してみてください。


目で味わうコーヒー

サイフォンの魅力は、できあがった一杯の味わいだけではありません。湯が昇り、粉がおどり、コーヒーが降りてくる。そのすべてが目の前で起こることです。

忙しい朝には向かないかもしれませんが、時間に余裕のある休日には、ガラスの中の小さな変化を眺めながらコーヒーを淹れてみてはいかがでしょうか。いつもの豆が、少し違って感じられるかもしれません。