中米の太平洋側に位置するエルサルバドルは、面積およそ2万km²ほどの小さな国です。けれどもコーヒーの世界では、その大きさ以上に存在感のある産地として知られています。

理由のひとつは品種です。この国は伝統的なブルボンを長く大切にしてきました。そして、ブルボンから生まれたパカス、さらにそのパカスから生み出されたパカマラのふるさとでもあります。


コーヒーの歴史

ICO(国際コーヒー機関)で紹介されたエルサルバドルのコーヒー概要によると、この国にコーヒーがもたらされたのは1740年。1855年に初めて輸出され、その後、国の経済を支える作物になっていきました。

2012〜13年には、中米全体でさび病が大流行しました。エルサルバドルでは、2012〜13年から2013〜14年にかけて生産量がおよそ6割も落ち込んだとされます。


ブルボンの国

同じ資料では、エルサルバドルの品種の内訳は、ブルボンが62%、パカスが31%、パカマラが2%、その他が5%とされています。中米の多くの国で耐病性の品種への植え替えが進むなか、エルサルバドルの生産者は伝統的なブルボンを支持し続け、長いあいだ耐病性のハイブリッド品種を避けてきたといわれます。

ブルボンは背が高く、収量は中程度ですが、標高の高い土地ですぐれたカップの品質を生む品種です。一方で、さび病には弱く、2012年からの流行で大きな打撃を受けました。

栽培地は、西部のアパネカ・イラマテペック山脈をはじめとする6つの山脈に広がっています。資料では、国内のコーヒーはすべて木陰で育てられている(シェードグロウン)とされています。収穫期はおおむね10月から3月です。

生産者の顔ぶれにも特徴があります。同じ資料によると、生産者はおよそ2万1,500。そのうち1万7,000ほどは、3.5ha以下の小さな農園です。小さな農園が数多く集まって、この国のコーヒーを支えています。


パカス:エルサルバドルで見つかった変異

パカスは、1949年にサンタアナ地方のパカス家の農園で見つかった、ブルボンの自然な突然変異です。ひとつの遺伝子の変異によって木が小さくまとまるため、密に植えることができ、畑全体の収量を高めやすいのが特徴です。ブラジルのカトゥーラや、コスタリカのビジャサルチと同じタイプの変異にあたります。

1960年からはエルサルバドルのコーヒー研究所(ISIC)が選抜を進め、いまも国の生産の大きな部分を担っています。RAW COFFEEで扱っているグアテマラ ハニーにも、品種のひとつとしてパカスが含まれています。


パカマラ:大粒で個性的な交配種

パカマラは、パカスと、とても大きな豆をつけるマラゴジッペを交配して生まれた品種です。同じくISICが開発し、1958年に交配の試験が始まったとされます。

ただし、親の性質に戻る苗が一定の割合で出るため、生産者は苗を注意深く選ぶ必要があるといわれます。さび病にもとても弱い品種です。

小さな国の山あいで、品種の物語が受け継がれてきた。

エルサルバドルの味わい

伝統的なエルサルバドルのコーヒーは、甘く、なめらかで、クリーンな味わいといわれます。ブルボンだけのロットはジューシーで果実味があり、パカマラのロットは深みのある甘さに、花のような香りが重なることが多いとされます。

産地は標高によっても格付けされ、標高1,200m以上で育ったものは「ストリクトリー・ハイ・グロウン(SHG)」と呼ばれます。中米のSHBと同じように、標高の高さを示す格付けです。


守り続けることの価値

流行の品種に植え替えるのではなく、昔からの品種を守り、そこから新しい品種を育ててきたエルサルバドル。その歩みは、さび病という大きな試練も含めて、品種と産地の関係を考えさせてくれます。

エルサルバドルのコーヒーを見かけたら、ラベルの品種の欄に目をとめてみてください。ブルボン、パカス、パカマラ。その名前の向こうに、この国の歴史が見えてくるはずです。