コーヒーの品種名には、見つかった土地や人の名前がついていることがよくあります。ビジャサルチ(Villa Sarchi)もそのひとつ。中米のコスタリカで見つかり、いまもおもにコスタリカで育てられている品種です。
生産量の多い品種ではありませんが、その遺伝子は、さび病に強い新しい品種の中に受け継がれています。今回は、ビジャサルチの生い立ちと特徴を見ていきます。
ブルボンから生まれた、背の低い品種
World Coffee Research(WCR)の品種カタログによると、ビジャサルチはブルボンの自然突然変異です。ひとつの遺伝子の変異によって、樹が小さくまとまる性質を持つようになりました。
同じように、ブルボンの「背が低くなる」突然変異から生まれた品種には、次のようなものがあります。
ビジャサルチは1950年代か1960年代に、コスタリカのアラフエラ州北西部で見つかったとされます。その後、優れた株を選んで世代を重ねる選抜が現地で続けられました。「ラ・ルイサ」や「ビジャロボス・ブルボン」と呼ばれることもあります。
高地と風に強い
ビジャサルチの特徴としてよく挙げられるのが、標高の高い環境によく適応し、強い風にも耐えられることです。WCRのカタログでは、次のように整理されています。
- 樹の高さ:低い(矮性)
- 豆の大きさ:平均よりやや小さい
- 収量:中程度
- 高地での品質のポテンシャル:良好
- 病害虫:さび病、線虫、コーヒー炭そ病(CBD)のいずれにも弱い
樹が低くまとまるため、密に植えやすく、収穫の作業もしやすくなります。一方で、病気には強くないため、栽培には手間がかかります。肥料などの栄養も多く必要とする品種とされています。
そのほかの性質も、カタログに記されています。
- 最初の収穫:植えてから3年目
- 実の熟す時期:平均的(カトゥーラと同程度)
- チェリーから取れる生豆の割合:平均的
- 適した標高:高地。コスタリカのような北緯5〜15度の地域では、標高1,300m以上が目安とされる
コスタリカ国外ではあまり広まっていませんが、1974年にはホンジュラスのコーヒー協会(IHCAFE)によって、ホンジュラスにも導入されました。高地と風に強いという性質は、山がちな中米の産地にとって、大きな魅力だったのかもしれません。
「サルチモール」の名前の由来に
ビジャサルチの名前がもっとも知られているのは、じつは別の品種群を通してかもしれません。それが「サルチモール」です。
さび病の研究で知られるポルトガルの研究機関(CIFC)は、1950年代の終わりに、アラビカ種とカネフォラ種の自然交雑種であるティモール・ハイブリッドの種子を受け取りました。そして1967年、さび病に強く、しかも背が低く密植できる品種をつくる研究を始めます。1970年代にさび病が中南米に到達すると、こうした品種への期待はいっそう高まりました。
- さび病に強いティモール・ハイブリッドの株を選ぶ
- 背の低いビジャサルチと交配する
- 生まれた交配種が「サルチモール」と名づけられる
サルチ(Sarchi)とティモール(Timor)を合わせた名前です。同じティモール・ハイブリッドを背の低いカトゥーラと交配したものは、カティモールと呼ばれます。
このサルチモールの系統からは、さび病に強い品種がいくつも生まれています。
- オバタ:ブラジルの研究機関が選抜し、2000年に発表。2014年にはコスタリカのコーヒー協会(ICAFE)によって、コスタリカでも商業用に導入された
- マルセリェサ:ニカラグアでさび病への強さに注目して選抜され、2009年に発表された
どちらも、ティモール・ハイブリッドとビジャサルチを掛け合わせた系統です。ビジャサルチの生まれた国に、その子孫が新しい品種として戻ってきたことになります。
小さな樹に起きたひとつの変異が、病気と闘う品種づくりの土台になった。
品種名から、カップの背景を想像する
ビジャサルチのように、品種にはそれぞれ、見つかった場所や選ばれてきた理由があります。高地に強いこと、風に強いこと、病気に弱いこと。そうした性質は、その品種がどんな土地で、どんなふうに育てられているかにもつながっています。
豆のラベルに品種名を見つけたら、その生い立ちにも少し目を向けてみてください。同じ一杯が、少し違って見えてくるはずです。