コーヒーの味わいを表すとき、まず思い浮かぶのが苦味かもしれません。「苦いから苦手」という人もいれば、「この苦さがいい」という人もいます。
では、コーヒーの苦味はいったい何から来ているのでしょうか。よく名前が挙がるのはカフェインですが、話はそれほど単純ではありません。今回は、コーヒーの苦味の正体を、研究の知見とあわせて見ていきます。
カフェインは、苦味の一部にすぎない
カフェインはたしかに苦い物質です。けれども、ドイツ・ミュンヘン工科大学の研究者は、コーヒーの苦味のうちカフェインによるものは15%ほどだと見積もっています。その根拠のひとつが、カフェインを取り除いたデカフェも、通常のコーヒーと似た苦味を持つことです。
これまでの研究で、コーヒーの苦味に関わりうる成分は25〜30種類ほど挙げられてきました。そのなかで、とくに大きな役割を果たしているとされるのが、焙煎によって生まれる成分です。
苦味は、焙煎でつくられる
研究チームは、成分を細かく分ける分析技術と、コーヒーの苦味を感じ分けるよう訓練された人たちによる官能評価を組み合わせて、苦味の原因を探りました。その結果、コーヒーの苦味のおもな原因として、ふたつのグループの成分が特定されました。
- クロロゲン酸ラクトン:10種類ほどの成分からなり、浅煎りから中煎りのコーヒーの苦味の中心になる
- フェニルインダン:クロロゲン酸ラクトンがさらに分解してできる成分で、深煎りのコーヒーやエスプレッソに多い
おもしろいのは、どちらも生豆には含まれていないことです。どちらも、生豆に多く含まれるクロロゲン酸から焙煎中に生まれますが、クロロゲン酸そのものは苦くありません。
フェニルインダンは、もとのラクトンよりも長く残る、強い苦味を持つとされます。深煎りのコーヒーほど苦く感じやすいのは、このためだと考えられています。全日本コーヒー協会も、一般的に浅煎りほど酸味が強く、深煎りほど苦味が強くなると説明しています。
コーヒーの苦味は、豆がもともと持っているものではなく、火を通すことで生まれてくるもの。
淹れ方でも、苦味は変わる
苦味の強さは、焙煎度だけで決まるわけではありません。抽出の条件によっても変わります。
- 抽出の時間:全日本コーヒー協会は、抽出時間が短いと「酸っぱくて薄く」、長いと「苦くてエグく」なると説明しています
- 粉の量:使う粉の量が多いほど、苦味も強く感じられやすくなります
- 抽出の方法:高い圧力と温度で淹れるエスプレッソは、苦味成分がもっとも多くなりやすいとされます
スペシャルティコーヒーの評価でも、苦味は「強いか弱いか」ではなく、ほかの味わいとの関係の中で見られます。SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)は、よく熟したチェリーから生まれる甘さを評価項目のひとつに挙げ、辛さのある苦味や刺激的な酸味、渋みなどがあると、甘さが感じにくくなると説明しています。風味の調和を問うバランスも、評価の項目です。
苦味が強すぎると感じるときは、過抽出になっていないかを疑ってみましょう。挽き目を少し粗くする、湯の温度を少し下げる、抽出時間を短くする。条件をひとつずつ変えると、苦味の出方が変わるのがわかるはずです。
苦味の感じ方は、人によって違う
同じ一杯でも、苦味の感じ方は人によって異なります。舌には苦味を感じる受容体があり、その遺伝子には個人差があることが知られています。双子を対象にした研究では、カフェインの苦味をどれくらい強く感じるかにも、遺伝の影響があると見積もられています。
英国の大規模なデータを使った2018年の研究では、カフェインの苦味を強く感じやすい遺伝的傾向を持つ人ほど、コーヒーを多く飲み、1日4杯を超えて飲む「ヘビードリンカー」になりやすい傾向が見られました。一方、ほかの苦味物質に敏感な傾向を持つ人では、コーヒーを飲む量がやや少ない傾向がありました。苦味を感じやすいことが、必ずしもコーヒー嫌いにつながるわけではないようです。苦味の感じ方には、味覚だけでなく、その飲みものとどう付き合ってきたかという経験も関わっているのかもしれません。
苦味も、味わいのひとつとして
苦味は、ときに嫌われものになりがちです。けれども、甘味や酸味と重なりあうことで、味わいに奥行きとバランスをもたらす要素でもあります。
浅煎りの軽やかな苦味と、深煎りのどっしりとした苦味。その違いを意識して飲み比べてみると、自分が好きな「苦さ」の形が見えてくるかもしれません。