コーヒーの精製では、多くの場合、チェリーや豆の表面で発酵が起こります。その発酵を担っているのは、もともとチェリーや周りの環境にいる酵母や細菌などの微生物です。

近年、この発酵に、あらかじめ選んだ酵母を加える方法が注目されています。それがイーストプロセスです。パンやビール、ワインづくりでおなじみの酵母が、コーヒーの味わいにどう関わるのか。研究の結果を手がかりに見ていきます。


自然まかせの発酵と、その難しさ

たとえばウォッシュドでは、果肉を取り除いた豆を水に浸けて6〜72時間ほど発酵させ、豆のまわりに残るミューシレージを分解してから洗い流します。この発酵は、多くの産地で、土地にもともといる微生物にまかせて行われてきました。

自然の微生物による発酵は、その土地らしさを生む一方で、どんな微生物がどれだけ働くかは、そのときどきで変わります。研究者のあいだでも、こうした管理されていない発酵は、品質がばらつく原因になりやすいと指摘されています。発酵は、ミューシレージを取り除くためだけでなく、アルコール類やエステル類、有機酸といった、風味に関わる成分を生み出す工程でもあるとされます。


選んだ酵母を「加える」という考え方

イーストプロセスでは、発酵の始めに、選んだ酵母(スターターカルチャー)を加えます。ねらいは大きくふたつあります。

よく使われるのが、パンやお酒づくりでもおなじみのサッカロミセス・セレビシエという酵母です。もともとコーヒーの発酵にも自然に現れる酵母で、ミューシレージに含まれるペクチンを分解する酵素をつくることが知られています。ほかにも、トルラスポラやピキアなど、さまざまな酵母が試されています。


研究でわかってきたこと

オーストラリアの研究では、2種類の酵母を加えてウォッシュドの発酵を行ったところ、加えた酵母が発酵の主役になり、ミューシレージの糖がより速く使われました。生豆に含まれるアルコール類やエステル類、有機酸などの成分は2〜3倍に増え、カップテストでは、風味や香り、酸味の評価が、酵母を加えなかったものより高くなりました。

ブラジルの研究では、ふたを密閉した容器の中での発酵にサッカロミセス・セレビシエを加え、0時間から96時間まで、発酵時間ごとの変化を調べています。容器の中では、微生物が酸素を使い切り、二酸化炭素を出すことで、しだいに酸素のない状態になります。

香りの成分は全部で121種類が見つかり、そのうち22種類は、酵母を加えたコーヒーにだけ現れました。研究者たちは、酵母を加えるかどうか、どれくらいの時間発酵させるかは、生産者がめざす風味によって選ぶものだとまとめています。

どの酵母を、どれくらいの時間働かせるか。その組み合わせが、カップの表情を変えていく。

加えれば、おいしくなるとは限らない

一方で、酵母を加えれば必ずおいしくなるわけではありません。米国の大学の修士研究で、ビールやワインづくりに使われる酵母でコーヒー豆を発酵させた研究では、酵母によって風味が大きく変わり、どれも酵母を加えなかったものより花のような香りが強くなりました。それでも、好ましさの評価がいちばん高かったのは、酵母を加えなかったものでした。

酵母の種類、発酵の時間、豆の品種や精製の方法。どれを組み合わせるかで、結果は大きく変わります。イーストプロセスは、まだ試行錯誤が続いている分野といえそうです。

GOOD COFFEE FARMSも、生豆の卸売のなかで、従来の発酵や嫌気性発酵とならんで、酵母発酵や麹発酵などのプロセスのロットを紹介しています。


精製方法の名前に注目してみる

豆のラベルに「イースト」「Yeast」といった言葉を見つけたら、それは発酵に酵母を加えたコーヒーかもしれません。ナチュラルやハニーと同じように、精製の方法は味わいを読み解く手がかりになります。

自然の微生物にまかせるか、選んだ酵母の力を借りるか。どちらがよいというより、つくり手が何をめざしているのか。そんな視点で飲み比べてみると、発酵の奥深さが見えてくるはずです。