はっきりとした明るい酸と、ジューシーな果実のような味わい。スペシャルティコーヒーの世界で、ケニアは「酸の美しい産地」として特別な存在感を放っています。
コーヒー豆のラベルで「ケニア AA」という表記を見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。今回は、この等級の意味や、ケニアならではの生産と流通のしくみについて紹介します。
ケニアのコーヒーの歩み
ケニアでコーヒーが栽培されはじめたのは1893年のことで、当初はイギリス人が経営する大農園が中心だったとされます。1933年にはコーヒー法が制定され、コーヒー委員会(Coffee Board of Kenya)と、のちのオークション制度の基礎がつくられました。
主な産地は、ケニア山の周辺地域です。そのほか、アバーデア山脈の周辺やニャンザ、ナクル、ブンゴマ、キシイなどでも栽培されています。生産されるのはほぼすべてがアラビカ種です。
ラベルの「AA」は何を表す?
ケニアのコーヒーは、精製と脱殻を終えた生豆の大きさによって等級に分けられます。代表的なものは次のとおりです。
- AA:大粒の等級。スクリーン18前後(約7.2mm)とされます
- AB:AAよりひとまわり小さな粒
- PB:丸い一粒豆のピーベリー
- C・TT・T:より小さな豆や軽い豆、割れた豆など
- E:「エレファント」と呼ばれる特大の豆。量はわずかです
ケニアのコーヒーのうち、ABはおよそ3割、ピーベリーは1割ほどを占めるとされます。
AAは高い価格がつきやすい等級ですが、大切なのは、これがあくまでスクリーンサイズ、つまり豆の大きさによる区分だということです。味を評価した結果ではありません。実際に、同じ精製所のAAとABをカッピングで比べると、評価の差はごく小さいことが多いという輸入業者の報告もあります。「AA」は品質の手がかりのひとつとして受け止めるのがよさそうです。
小さな農家と協同組合
ケニアのコーヒーの多くは、小規模な農家によってつくられています。農家が摘んだコーヒーチェリーは、地域の協同組合が運営するウェットミル(現地では「ファクトリー」と呼ばれます)に集められ、そこで精製されます。米国農務省の報告によれば、約550の協同組合が、ケニアのコーヒーの8割以上を販売しています。残りは、自前のウェットミルを持つ大きな農園や企業などが扱っています。
そのため、ケニアのロットには、農園名ではなくファクトリーの名前がついていることがよくあります。一つひとつのロットの向こうには、たくさんの小さな農家がいるのです。
ラベルの「AA」は、豆の大きさの印。味わいを決めるのは、その向こうにいる人と土地。
ナイロビのオークション
ケニアのコーヒーの流通で特徴的なのが、ナイロビ・コーヒー取引所(NCE)です。コーヒーの販売の9割以上がこの取引所を通じて行われ、残りは買い手と生産者側との直接契約で取引されています。
取引所では、ブローカーが出品ロットの販売カタログを用意し、それをもとに取引が進められます。取引所の歴史は古く、1935年から続いているとされます。2023年には制度改革が行われ、取引所を通じた代金は新しい決済システムを経て支払われるようになるなど、流通のしくみも変わりつつあります。
品種と研究の歴史
ケニアの味わいを語るうえで欠かせないのが品種です。1930年代、当時のスコット農業研究所で選抜されたSL28やSL34は、カップの品質がきわめて高い品種として知られ、いまも各地で栽培されています。
一方で、これらの品種はさび病や、雨の多い時期に広がりやすいコーヒー果実病(CBD)に弱いという課題を抱えていました。そこでケニアの研究機関は、病気に強いルイル11(1985年)やバティアン(2010年)を開発しています。品質と病気への強さをどう両立させるか。ケニアのコーヒーは、その試みの歴史でもあります。
ケニアの味わいを楽しむなら
ケニアのコーヒーは、ワインのような酸と、ベリーを思わせる果実味を持つといわれます。高地の環境と、品質の高さで知られる品種が、その個性を支えているのでしょう。
明るい酸味を楽しむなら、浅煎りから中煎りがおすすめです。少し冷めてくると、果実のような甘さと酸がいっそう感じやすくなります。ぜひ、ゆっくりと温度の変化とともに味わってみてください。