ケニアのコーヒーの袋には、産地や精製方法と並んで「SL28, SL34」「Ruiru 11」「Batian」といった品種名が書かれていることがあります。アルファベットと数字が並ぶ、少し不思議な名前です。
これらはいずれも、ケニアの研究機関で選抜・開発された品種です。今回は、ケニアを代表する4つの品種を紹介します。
SL28とSL34:研究所が選んだ品種
名前の「SL」は、ケニアのカベテにあったスコット農業研究所(Scott Agricultural Laboratories)に由来します。1935年から1939年にかけて、この研究所では一本一本の木から品質や性質のよいものを選び出す取り組みが行われ、選ばれた系統には「SL」の名がつけられました。
SL28は1935年、干ばつに強いとされた系統から選抜された品種です。そしてSL34は1930年代後半、カベテのロレショ農園にあった一本の木から選抜されました。研究所は地元の農園と協力して研究を進めることが多かったのです。
SL34は背の高い品種で、カップの品質がきわめて高く評価されています。とくに標高が高く、雨に恵まれた地域に適しているとされます。
選抜のもとになった木には「フレンチミッション」という札がつけられていました。フレンチミッションは、フランス人宣教師がレユニオン島から持ち込んだブルボンの別名として知られています。ところが近年の遺伝子検査では、SL34はティピカに近い系統だと示されました。由来の言い伝えは、もしかすると正確ではなかったのかもしれません。
品質の高さと、病気への弱さ
SL28やSL34は、ケニアのコーヒーらしい明るく果実味のある味わいを生む品種として知られています。一方で、大きな弱点も抱えていました。
- さび病:葉に広がるカビの病気。SL34はかかりやすい品種です
- コーヒー果実病(CBD):カビの一種によって実が侵される病気。雨の多い条件で広がりやすく、ケニアでは大きな脅威となっています
品質のよい品種ほど病気に弱い。この課題に向きあうため、ケニアの研究機関は新しい品種の開発に取り組みました。
ルイル11:病気に強いコンパクトな品種
ルイル11は、1985年に発表された品種です。名前は、ルイルにあるコーヒー研究所に由来します。
病気に強いカティモールを母親に、SL28などの品質の高い系統を含む父親をかけあわせたF1ハイブリッドで、さび病に耐性があり、CBDにも抵抗性を持つとされます。背の高い父親と、コンパクトな母親をかけあわせることで、木がコンパクトで病気に強い性質が生まれました。一代目の雑種ならではの勢い(雑種強勢)によって、収量がとても多いのも特徴です。木が小さいぶん、畑に密に植えることもできます。
ただし、F1ハイブリッドの種子をつくるには、人の手で受粉させる必要があります。そのため、大量の種子を用意するのが難しいという課題もありました。
バティアン:背の高い、病気に強い品種
バティアンは、2010年にケニアで発表された品種です。ルイル11の父親側の系統から何世代にもわたって選抜を重ね、生まれました。
SL28やSL34、ハイブリッド・ティモールなどを祖先に持ち、CBDに抵抗性、さび病にも一定の耐性があるとされます。背が高く、収量も多く、カップの品質もよい。病気への強さと品質の両立をめざした品種です。ルイル11のような一代雑種ではなく、3つの「純系」の系統を混ぜあわせた品種です。手入れが十分にできない条件にも比較的強く、小規模な農家に向いているといわれます。
おいしさを守るために、病気に強い木を育てる。品種の名前には、その積み重ねが刻まれている。
品種名に注目して飲んでみる
ケニアのロットの多くは、たくさんの農家のチェリーを集めて精製されるため、ひとつのロットに複数の品種が混ざっていることも少なくありません。ラベルに「SL28, SL34, Ruiru 11」のように複数の品種名が並ぶのは、そうした事情によることが多いようです。
品種だけで味が決まるわけではありませんが、名前の由来や生まれた背景を知ると、一杯のケニアがまた違って見えてきます。ラベルの品種名にも、ぜひ注目してみてください。