「このふたつのコーヒー、本当に味が違うのだろうか」。飲み比べをしていると、そんな疑問がわくことがあります。違うと言われれば違う気がするし、同じと言われれば同じにも思える。人の感覚は、思っている以上に先入観に左右されます。
そんなとき役に立つのが、トライアングルテストという方法です。今回は、そのしくみと、家で試すときのポイントを紹介します。
トライアングルテストとは
トライアングルテストでは、3つのカップを用意します。そのうち2つは同じもの、1つだけが違うもの。味わう人は、どれが違う1杯なのかを選びます。
この方法は、食品の官能評価の手法として規格にもなっています。アメリカの規格団体ASTMの規格(E1885)は、トライアングルテストを「2つの製品のあいだに、感じ取れる違いがあるかどうかを判断する」ための手順として定めています。
ポイントは、「どちらがおいしいか」ではなく、「違いがわかるかどうか」を確かめる方法だということです。好みの評価とは切り離して、純粋に違いを感じ取れるかを見ることができます。
なぜ3つなのか
2つのカップを並べて「違いますか?」と聞くと、多くの人は何かしらの違いを探そうとします。ところが3つのうち1つを選ぶ形にすると、当てずっぽうで正解する確率は3分の1に下がります。
- 何度もくり返して正解が3分の1を大きく上回れば、違いを感じ取れているといえる
- 正解がほぼ3分の1にとどまるなら、偶然の範囲かもしれない
1回だけの正解では偶然と区別しにくいため、何組かくり返して確かめるのが基本です。
競技にもなっているトライアングルテスト
コーヒーの世界には、このトライアングルテストを競う大会があります。ワールド・カップテイスターズ・チャンピオンシップでは、選手は3つのカップのうち違う1杯を、できるだけすばやく見つけ出します。1ラウンドは8組で、正解数の多さと速さで順位が決まり、上位8人が準決勝、さらに上位4人が決勝に進みます。
アメリカの予選大会(2023年)の資料には、公平な比べ方のための条件も示されています。
- 焙煎から14日以内の豆を使う
- 比べるコーヒーは同じ程度の中煎り(アグトロン値で55〜70)にそろえ、同じように挽く
- 粉と湯の比率は1リットルあたり60g、92〜96℃の湯で同じ方法で抽出する
- カップに注ぐ量は75〜150ml、提供時の温度は80〜85℃
- 組み合わせは選手ごとに並べる順番を変える
- 3つのカップすべてを味わわなければならない
この予選では、選手は5組の判定を5分以内で行います。カップに触れたり持ち上げたりした時点でそれが最終的な答えになり、あとから変えることはできません。正解数が同じなら、早く終えた人が上位になります。違いを感じ取る力が、時間との勝負になっているのです。
「違う気がする」を、「違いがわかる」に変えるための3つのカップ。
カッピングとの違い
コーヒーの品質を評価する方法としては、カッピングがよく知られています。カッピングは、香りや酸味、甘さなどの項目ごとに点数をつけ、コーヒーの特徴や品質を記録していく方法です。
それに対してトライアングルテストは、点数や言葉を使わず、「違いがあるかどうか」だけに答えを絞ります。評価する人の言葉の使い方や好みに左右されにくいのが、この方法のよいところです。
家で試してみる
トライアングルテストは、家でも気軽に試すことができます。たとえば、次のような比べ方がおもしろいでしょう。
大切なのは、比べたい条件以外をできるだけそろえることです。粉と湯の比率、温度、カップの形、量。どれかがずれると、その違いを感じ取ってしまうかもしれません。
また、味わう人にはどれが違うカップか分からないようにしておきます。家族や友人にカップを並べてもらい、底に印をつけておくと、あとで答え合わせができます。
違いを知ることは、好みを知ること
トライアングルテストをくり返していると、自分がどんな違いに敏感で、どんな違いには気づきにくいのかが見えてきます。それは、自分の好みを知るための近道でもあります。
違いがわからなかったとしても、がっかりする必要はありません。「この条件の違いは、自分にとっては大きくない」ということがわかるのも、立派な発見です。3つのカップを並べて、自分の舌と向き合う時間を楽しんでみてください。