焙煎の終盤、豆がパチパチとはじけ始める1ハゼ。焙煎をする人にとって、ここからの数分間は特に緊張する時間です。

1ハゼが始まってから豆を釜から出すまでの時間を、デベロップメントタイムといいます。ほんの1〜2分の違いでも、カップの印象は変わるといわれます。今回は、この「仕上げの時間」について見ていきましょう。


焙煎はいくつかの段階に分けられる

焙煎の流れは、豆の色や音の変化をもとに、いくつかの段階に分けて考えられています。カリフォルニア大学デービス校の研究チームは、論文のなかで次のように整理しています。

  1. 色が変わるまで:緑がかった黄色の生豆が、黄褐色に変わるまで。水分が抜けていく段階と考えられ、「ドライフェーズ」とも呼ばれます
  2. 色の変化から1ハゼまで:豆が茶色く色づいていく段階。メイラード反応にちなんで「メイラードフェーズ」と呼ばれることがあります
  3. 1ハゼから2ハゼまで:一般に「デベロップメント」と呼ばれる段階
  4. 2ハゼのあと:豆が黒くなり、煙が多く出る段階

実際には、ほとんどの浅煎りから中煎りは2ハゼの前に釜から出されます。そのため、デベロップメントタイムは「1ハゼから焙煎終了まで」の時間として語られることが多くなっています。


同じ色でも、味は変わる

焙煎の仕上がりは、ふつう豆の色、つまり焙煎度で表されます。では、同じ色に焼き上げれば、味も同じになるのでしょうか。

デンマークの研究者らが、8つの官能評価の研究データをまとめて分析したところ、色(焙煎度)と時間のどちらも風味に影響していました。より強く影響していたのは色でしたが、同じ色でも時間が変わると風味は変わり、なかでも「1ハゼまでの時間」より「デベロップメントタイム」のほうが風味への影響が大きかったと報告されています。


短いと果実味、長いと香ばしさ

同じ研究グループは、デベロップメントタイムだけを少しずつ変えた4つの焙煎を比べる実験もおこなっています。その結果、次のような傾向が示されました。

わずかな違いでも、味わいと成分の両方に統計的にはっきりした差が出たといいます。研究者らは、デベロップメントタイムを品質管理の重要な指標として扱うことを提案しています。

同じ色に焼き上がった豆でも、そこに至るまでの時間は、カップの中に残っている。

短すぎても、長すぎても

では、デベロップメントタイムは短いほどよいのかというと、そうとはいいきれません。

焙煎の欠点を再現したイギリスとデンマークの研究者による実験では、標準の焙煎のデベロップメントタイムが2分40秒(総焙煎時間11分25秒)だったのに対し、わずか10秒で焙煎を終えた「浅すぎる」焙煎では、多くの香り成分が少なくなっていました。十分に香りが育つ前に焙煎を終えてしまった、ということです。

反対に、長すぎれば香ばしさや苦味が強まり、豆が本来もっていた果実のような個性は見えにくくなります。ちょうどよい長さは、豆の性質やめざす味わいによって変わるのです。


焙煎する人が見ているもの

焙煎をする人は、温度や時間を記録した焙煎プロファイルをもとに、デベロップメントタイムを細かく調整しています。

同じ「中煎り」と書かれた豆でも、そこに至る時間の使い方は焙煎所ごとに違います。焙煎する人の考えが表れるのは、1ハゼのあとの、ほんの数分間なのかもしれません。