ワインに「カベルネ・ソーヴィニヨン」や「ピノ・ノワール」といったぶどうの品種があるように、コーヒーにも品種があります。
品種によって、風味はもちろん、樹の高さや実のつき方、病気への強さまで違います。生産者は、自分の土地の気候や標高、目指す味わいに合わせて品種を選んでいます。この記事では、コーヒーの品種を「系譜」としてたどってみます。
まずは「種」の話から
品種の話の前に、もうひとつ上の分類である「種」を押さえておきましょう。コーヒーはコーヒーノキ属の植物で、100以上の種が知られています。そのうち、私たちが飲んでいるコーヒーのほとんどは次の2つです。
- アラビカ種:香りが高く、酸味と甘さが豊か。霜や極端な暑さに弱く、熱帯の山あいの高地でよく育ちます。スペシャルティコーヒーのほとんどがこの種です。
- カネフォラ種(ロブスタ):病気に強く、アラビカ種より標高の低い土地でも育ちます。苦味とカフェインが多いのが特徴です。
興味深いのは、アラビカ種そのものが、カネフォラ種とユーゲニオイデス種という2つの野生種の自然交雑から生まれたと考えられていることです。そしてアラビカ種は自家受粉で実をつけるため、遺伝的な多様性が小さい。これが、のちに病気との長い戦いにつながっていきます。
ここから先は、アラビカ種の中の「品種」の話です。
二つの源流:ティピカとブルボン
アラビカ種の故郷はエチオピアです。そこからイエメンへ渡ったコーヒーが、やがて世界に広がっていきました。その過程で生まれた二つの大きな系統が、ほとんどの栽培品種のルーツになっています。
ティピカ — 世界をめぐった系統
ティピカは、イエメンからインド、ジャワ島を経てヨーロッパへ渡り、18世紀にカリブ海や中南米へ広がった系統です。樹が高く収量は少なめで、病気にも弱い。そのかわり、クリーンで上品な甘さを持っています。
ブルボン — 甘さとコクの系統
ブルボンは、18世紀初めにイエメンからインド洋のブルボン島(現在のレユニオン島)へ持ち込まれた木が起源です。ティピカより収量が多く、甘さとコクのバランスに優れています。
変異と交配が生んだ品種たち
二つの源流から、自然の突然変異や人の手による交配で、多くの品種が生まれました。
背の低い品種:カトゥーラとパカス
1910年代、ブラジル・ミナスジェライス州のブルボンの畑で、背の低い突然変異が見つかりました。これがカトゥーラです。樹が低いと密に植えられ、収穫もしやすい。中南米、とくにコロンビアで広く栽培されるようになりました。エルサルバドルで見つかったパカスも、同じくブルボンの変異です。
交配で生まれた品種:ムンドノーボ、カトゥアイ、パカマラ
ブラジルではティピカとブルボンの自然交雑からムンドノーボが選抜され、さらにムンドノーボとカトゥーラを掛け合わせてカトゥアイが生まれました。
エルサルバドルでは、パカスと、ティピカの変異で生まれた大粒のマラゴジッペを交配してパカマラがつくられました。大粒で、ハーブや柑橘を思わせる複雑な風味を持ち、品評会でもたびたび高い評価を受けています。
ケニアの品種:SL28
1930年代のケニアでは、スコット農業研究所が干ばつに強い木を選抜し、SL28が生まれました。カシスを思わせる鮮やかな酸味は、ケニアコーヒーの代名詞です。
原点に近い品種:ゲイシャとエチオピア在来種
アラビカ種の故郷エチオピアには、いまも数千ともいわれる在来の系統が森や農家の庭先に混ざって育っています。世界のアラビカ種の遺伝的多様性のほとんどが、ここに残っているのです。
その中から世界に羽ばたいたのがゲイシャです。1930年代にエチオピアのゲシャ地方で採取され、タンザニアの研究所、コスタリカの研究機関(CATIE)を経てパナマへ。2004年にパナマの品評会で突出した評価を受けると、ジャスミンや紅茶を思わせる透明感のある香りで一躍有名になりました。
そしてもうひとつ、近年注目を集めているのがピンクブルボンです。コロンビアのウイラ県で広まった、ピンク色に熟す品種で、柑橘や花を思わせる明るい風味が魅力です。名前のとおりブルボンの一種とされてきましたが、近年の遺伝子解析ではエチオピア在来種に近いという報告もあり、その起源はまだ研究が続いています。
RAW COFFEEで扱っているコロンビア ラ・プリマベーラは、このピンクブルボンとカトゥーラを半分ずつ。華やかさと明るい酸味の両方を楽しめるロットです。
病気との戦いと、これからの品種
遺伝的多様性の小さいアラビカ種にとって、最大の脅威がさび病です。19世紀にはスリランカのコーヒー栽培を壊滅させ、2010年代には中米で大流行しました。
この病気に立ち向かうため、ティモール島で見つかったアラビカ種とカネフォラ種の自然交雑種ハイブリッド・ティモールが交配に使われ、カティモールなどの病気に強い品種が生まれました。
気候変動で栽培に適した土地が減っていくなか、おいしさと強さを両立する品種の研究はいまも続いています。エチオピアの森に眠る多様性は、未来のコーヒーを守るための大切な資源でもあるのです。
品種を知ると、コーヒーはもっと面白い
品種は、コーヒーの風味を決める要素のひとつにすぎません。同じ品種でも、育つ土地や精製の方法によって味わいは大きく変わります。
それでも、パッケージに書かれた品種名から「この豆はどんな旅をしてきたのか」を想像できるようになると、一杯のコーヒーがぐっと立体的に感じられるはずです。品種どうしのつながりは、用語集の系統図でも見ることができます。
次の記事では、同じ品種の味わいを大きく変える「精製方法」についてご紹介します。